大切なことは全て海が教えてくれる

「特筆するべきことは、うなぎパイくらいしかない。」と過小評価される浜松に、海の賢者がいるという噂を聞き、私は新幹線を手配した。

目撃者の証言によると、人生のほとんどを海で過ごす賢者には、我々には見えない波や風が観え、鳥たちの会話が聴こえ、イルカのように軽やかに泳ぐことができるそうだ。

私は半分疑いながらも、代理人を通してアポイントを取り、現地へ向かったが、この1泊2日の滞在が世界を変えるような衝撃を与えたのだ。

本日は、そんな海の賢者をご紹介させていただこう。

賢者は、50歳を超える男性だったが、肌艶や表情があまりに若々しく、経験談を聞くまで年齢を信じることができなかった。

彼は、私がこれまでに出逢った中で、最も海を愛している人間であり、毎日泳いでいるはずなのに、海岸が近づくにつれて一服盛られたように様子がおかしくなった。

「本日の波形」に興奮する姿を見たときには、まるで元々は人魚か何かであったが、手違いによって陸に打ち上げられたのでは?とさえ感じた。

また彼の肌は、いかなる日本人の肌よりも黒く、その黒さは、ゴルフ場やテニスコートで冗談半分に焼かれたものではなく、どこか我々の知らない世界で焼かれた肌であった。

私の肌と比較すると、白イルカと黒豹くらいの違いはあったが、それでも彼によると「今シーズンは白い方ですよ。」ということらしい。

海岸に到着すると彼は慣れた手つきで脚立を組み、サーフボード4枚にウエットスーツ、水中カメラを用意し始めた。車の荷台には、足を洗う浄水タンクさえ備え付けられていた。

彼の人生においては、「良い波に乗る」という一点こそが重要であり、それは憲法でさえあるため、これらの設備は生活必需品の項目に記載されているのだろう。

優秀なインストラクターである賢者の元には、日々、仕事の依頼や昇進の話も飛び込んでくるが、たとえ口笛を吹きたくなるような報酬を提示しても、波が盛んな時間に海に出られないなら、彼が首を縦に振ることはない。

太陽の光や海のミネラルは、我々にとって最高の栄養であり、大切なことは全て海が教えてくれるのだと、彼は言う。

正直なところ私は山派だったが、それでも賢者とのサーフィンは至福の時間であり、一分一秒でも長く海に浸りたいと感じるまでになった。

なにせ、海水で髪が濡れることや、日焼け止めを塗る頻度を気にしていた私が、足をつり、クラゲに刺され、「そろそろ体力の限界ですね」と言われるまで海から出ようとしなかったのだから。

■美声の伝道師によるオーディオブック

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