2021-10-16

来世は魚にでもなろうか

私は原則として、「海には入らない」主義であり、仮に入ったとしても15分までと決めている。

なぜなら、せっかく塗った日焼け止めが流れるのは嫌だし、クラゲも怖い。なにより鼻に入る海水が不愉快極まりないからだ。

しかし海の賢者から、サーフィンを教わった日、そのあまりの楽しさゆえに「来世は魚にでもなろうか」と思えるほど、海に魅了されてしまった。

本日は、私の価値観を変えたサーフィン体験をご紹介しよう。

青春時代、全てをスケートに捧げた私は、「板に乗る」という行為に関して、いささかの自信がある。

不安定なスケートボードで、繊細に重心移動を行い、一点を強く蹴り上げ、空中でバランスを取ることができるため、たとえそれが海の上だろうとお茶の子さいさいだと考えていた。

賢者からサーフ・ボードを渡されたときも、私は悠々綽綽とした態度で波を眺めていたが、これが悲劇の始まりであった。

同伴したS様も自信たっぷりな様子だったため、我々は海岸に打ち寄せる波をみながら「大した波ではないですね」とか「午前中には終わりそうですね」など余裕をかましていたが、この手の発言をする人物はたいてい、物語の序盤で退場するのがお決まりである。

案の定、我々はさざ波に揉まれ、あっという間に体力を消耗し、クラゲの餌食となった。

板の上では、立つどころか座ることさえ出来ず、病弱なあざらしのように情けない姿でしがみついた。

波は遠くから見ると、穏やかで優しく見えても、水面から見ると大津波のような凄みがあり、直撃する度に、ブレーキを踏まないお婆さんが、自転車で体当たりしてきたような衝撃を受けるのだ。

講師である賢者は、我々がもがき苦しんでいるのを横目に、実にリラックスした様子で波と戯れていた。

ボードに座り、日光浴を楽しんだかと思えば、波の訪れに合わせて、私の泳ぐ16倍くらいの速度で海面を気持ちよさそうに泳いでいた。

賢者があまりに簡単そうにやってのけるので、私は「板が良いに違いない」と文句を言い、交換を要求したが、「単にパドル(漕ぎ)が足りないのです」とあっさり返されてしまった。

その口調は、「鍵が無いとロッカーは開きません」や「お金がないと肉まんは買えません」というように、周知の事実を語るときのさっぱりとした言いようであった。

私は自分の愚かさをようやく反省し、賢者のアドバイスに従ってパドルの練習を行った。

彼の的確なアドバイスのお陰で、午後には3回に1度くらいの確率で、波の力を借りられるようになった。

さすがに、板の上に立って波乗りをするには、未だ未だ訓練が必要だが、それでも波に押されて海面を滑る感覚は、空を飛んでいるかのような気持ちよさがあった。

この快楽は、体感しないとわからない類のものなので、読者諸君にはぜひ現地で体験していただきたい。

おたより

ご存じの通り、館主は偏屈で気難しい人物である。

おそらく友達が少ないため申請してあげると喜ぶに違いない。

館主が集めた「叡智の結晶」は、Youtubeでも公開している。

ぜひ一度覗いてみてはいかがだろうか。

■美声の伝道師によるオーディオ・ブック

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コメント24件

  • 健留 says:

    Kさん、今回も素敵な記事をありがとうございます!

    僕はサーフィンをやったことが無いどころか、海が苦手で小学生以来海に行った記憶がないほどです。

    しかし海でサーフィンをしている方々を目にし、心のどこかで憧れはありました。

    この記事を読んで、素直に、一度やってみたい!と感じました。

    海も、泳ぐことも好きではありませんが、新たなことに挑戦する勇気をいただきました!

    今後もKさんの記事を楽しみにしております。

  • 翔平 says:

    Kさんこんばんは。
    とても貴重な経験をされたのですね。

    文面からKさんの感情が伝わってきて僕もワクワクした気持ちになりました。
    最近はあまり行けていないですが、僕も波に押される感覚の虜になっていました。
    陸から見ているのと実際に海で味わうのとでは、全くの別物ですよね。

    現地の波を味わいに行ってみたくなりました。
    有難うございました。

  • shingo says:

    スケートもサーフィンも未開の地ですが、
    確かにパッと見はどちらも似ているような
    感じがしますよね。

    波の力を借りるというのは、
    まさに自然と一体化している
    ということなのでしょうね。

    空を飛んでいるような気持ちよさ
    いつか体験してみたいですね。

  • makiko1008 says:

    Kさん、本日も海の賢者さんとのひと時の
    お裾分け、ありがとうございます!

    Kさんはスケボーをされていたんですね。
    驚きました!
    私も横乗り系は少しかじってきました。

    波の衝撃の例え
    『ブレーキを踏まないお婆さんが、
    自転車で体当たりしてきたような衝撃』
    笑ってしまったと同時に、
    凄い衝撃なのが想像できました!笑

    私は泳げ無いので、海に入るのは怖いですが
    波乗りはやってみたいなと思っています。

    賢者さんに教えて頂きたいです!

    次回の記事も楽しみです。
    ありがとうございました!

  • 美保 says:

    Kさん、拝読しました。

    読者の私たちは、余裕綽綽としたKさん、そのご友人S様の態度が容易に想像できたので、サーフィンに対して”思っていたのと違う感”と”無邪気にのめり込む”様子が、人間味を感じられるギャップとなりました。

    海の師匠の聡明さ、流れに身を任せ自然と共存されている生き様が一層魅力的に感じられる記事でした。

    サーフィンとは「サーフボードの上に立ち、”波”が形成する斜面を滑走する」
    だそうで、”波”という生き物と共に遊ぶとは、何と素晴らしいことかと思います。

    ここまで拝読して、彼が、”波”のために会社を退職するのも納得できました。

  • なかむぅら(中村) says:

    今回も素敵な記事をありがとうございます。
    Kさんの記事を拝見し、私もサーフィンを体験してみたくなりました。
    というのも、サーフィンの聖地である浜松近辺に住んでいるにもかかわらず、サーフィンに挑戦していなかった自分は、焼肉屋で焼肉を食べずにサンチュだけ食べていたようなもので、貴重な体験の機会を逃していたなと感じました。
    普段やらないようなことに挑戦することで、新たな自分を発見したり気付きがあると思います。
    ましてや、一人で見様見真似でやった気になるのではなく、海の賢者に教えていただけるという機会は、やらない理由がないですね。
    また一つ、新しい事に挑戦する目標が出来ました。

  • 雄貴 says:

    Kさん、こんにちは。
    サーフィンお疲れ様でした!

    この記事を読んで、「サーフィンしてみたい」と思わない人はいないのでは?と思えるほど、とても興味のそそられる記事でした。

    運動神経にはそこそこの自信があるので、本当にそんなに難しいのかな?という疑う気持ちも少しありますが、

    早く海の賢者に教わりながら、実際に体験してみたいです!

    次回も楽しみにしています。

  • mitsue says:

    Kさん、おはようございます。

    サーフィンは見るのは好きですが、1度も挑戦しようと思ったことがありません。
    記事を見て大変難しいと感じました!
    私が画像で見るサーファー達は波と一体になり、本当に楽しそうです♪
    波と一体化になるまでには訓練を重ねたのでしょうね☆彡
    訓練を積み重ね継続した先に、波と一体化して軽やかに波を滑ることが出来るのだと思います。
    この記事の内容から「積み重ねと継続!!」の大切さを学びました。

    Kさんと賢人が並び砂浜を歩いている写真は肌の色が違い過ぎて…
    Kさんが小麦色の肌に色変した写真のUPを期待します♥
    いつも素敵な記事をありがとうございます。
    次も楽しみにしています♪♪

  • Yusei says:

    外から見るのと実際にやってみるのとでは全く体感が異なるのですね。

    私は水泳でよくプールでは泳いでいたのですが、
    「海の上」となるとかなり難しそうです。

    自然と調和しながら楽しむスポーツは本当に魅力的だと思います。

    テニスもコートや相手によって変数が多く、老若男女楽しめるスポーツですので
    ぜひ機会あればお声がけください(笑)

  • 貴明 Takaaki says:

    Kさん、おはようございます。
    記事を拝見させていただきました。

    Kさんにとってサーフィンの体験は価値観がひっくり返るほど素敵なものだったと伺えます。身体を気にされるKさんが来世では魚にでもなりたいと思われるほど海の賢者さんから、海の魅力を伝えられたようですね。

    私も先日サーフィンを初めて体験したのですが、Kさんと同様に遠くで眺める波は穏やかに見えても、実際に入ってみると人間など非力なものだと感じてしまうほど力強いものだと実感しました。

    そして、その波の力を借りて腹這いでも波に乗った時の気持ちよさは他では味わうことができないものでした。私もぜひ体験したいです。

    今回もありがとうございました。
    次回も楽しみにしています。

  • Nobue says:

    「お茶の子さいさい」という久しぶりに聞いたフレーズに、
    日本語って奥ゆかしくて良いなって思ってしまいました。

    私は海に多少の恐怖感を抱いています。
    溺れた記憶はありませんが、あまり泳ぎが上手でない事もあって、自分ではコントロールできない自然の力を恐れています。

    今回の記事からも、その自然の威力がとてもよく伝わってきました。

    でも、”ブレーキを踏まないお婆さんが自転車で体当たりしてきたような衝撃”って節にはフフっと笑ってしまいました。 きっとKさんはそんな経験をお持ちなんですね。 私は自転車にぶつかられた経験はないのですが、そのインパクトぶりを波に例えて読者に想像させる事ができてしまうそのKさんの文章表現力に、今回も感心してしまいました。

    同じ形式スキルだと思えそうなスケートボードとは、また違うのですね。

    うねりのある海に浮かぶ為のバランス感覚、パドルをする為の腕力、タイミングを見計らう感覚、波に乗るためのアクション、体重移動…などなど、きっと色々な要素が絡まってのアクティビティで手強いイメージですが、Kさんの楽しい体験記を読んでいたら、私も海の怖さよりもチャレンジしてみたい気持ちのほうが大きくなってきました。

    いつか海の賢者に教わりながら、私も人生初のサーフィン体験をしてみたいなって思いました。 本日も、ワクワク感をありがとうございました。

  • 石黒知行 says:

    人生の大半を北国で暮らし、
    「雪上なら」筋斗雲を自在に操るが如く
    板を乗りこなす私ですが…

    海では、まるでお釈迦様の手のひらで
    のたうち回る猪八戒でした。

    そんな私でも、賢人H氏の親身なご指導により
    「未体験の大きなチカラ」
    を僅かなりとも感じることが出来ました!

    サーフィンの体験や、
    オーロラ観測、青い地球を宇宙から眺める等、
    人間ではどうにもならない偉大なチカラを感じ
    受け容れられた時に、人は
    本当の意味で優しくなれるのかも知れませんね。

    H氏と話しているとそんな事を思い、
    あの波がどうしようもなく愛おしく感じるのです。

  • Yusuke says:

    Kさん
    価値観が一変した貴重なシェアをありがとうございます。
    スケードボードに青春を注いでいたのはとても驚きでした。
    またお話聞かせていただきたいです。

    岸からと実際見るのでは波の大きさや凄さは全然違いますよね。
    私もKさんと同じでサーフィンをする前は「波に乗るだけなんて簡単でしょう」と
    思い込んでいまして、行いや考えが全て自分に返ってくるように、自然に対して敬意を払わないと痛い目に遭うということを身に沁みて感じた一人です。

    海の賢者と一緒に海に行く時に、いつも多くのことを教えてくださいます。
    「良い波を求めることは人生の縮図そのもの」
    「一度逃したら同じ波は来ない」

    サーフィンは自分の生き方そのものを変えてくれるスポーツだと思います。
    クラゲに5回刺されながらも痛みを感じないほど波乗りに夢中なKさんの追い求める姿勢に刺激を受けました!
    また一緒にサーフィンできる日が楽しみです。

    今回も素敵な記事をありがとうございました!

  • Rie says:

    いつも楽しく記事を読ませていただいております(^^)
    この前S様にCodawari読んでたんですね、とビックリされました笑

    板が良いに違いない、と文句を言って交換してもらう所はちょっと想像が出来て思わず笑ってしまいました。見ているときは簡単そうだなぁと思っていても、実際にすると全然違ったりするのがスポーツの楽しさですよね。
    最近は自然で遊んだりすることがないので、私も思いっきり何かに挑戦したいなと思いました!

    次回も楽しみにしております。

  • Naoto says:

    Kさん、こんばんは。

    浜松でのサーフィン体験の記事連載とても嬉しいです!

    「海に入らない主義」であるkさんが、
    何よりも賢者とのサーフィンを経て、海に魅了されてしまったという事実に驚いています。

    「確かに楽しいけどもう二度目はいいかな」という思考にならなかったのは、海への嫌悪感をひっくり返してしまう程の価値や魅力を体を持っして体感されたからでしょう。

    私たちはKさんの心境の変化を見て、海への魅力を存分に感じているのを確認することはできますが、それを”体感すること”は不可能ですね。

    その不可能を可能にする行為は賢者と共にまずは海に出ることだ、としみじみ思いました。
    「できるか、できないか」は一旦は抜きにして。

    とても心が踊る素敵な記事でした。
    私もいつか必ず体感します。

    ありがとうございました。

  • ショウ says:

    なんでもそつなくこなしそうなKさんでも物語の序盤で消える名もないキャラのようなセリフと共にフラグを回収することに親近感を覚えました。
    それでも、諦めるという文字を置いてきた継続家だなとも思いました。
    自然に身を任せるというのは、自分ではどうにもできないことに身をゆだねることになるので、信じ切るのが難しいと思いました。
    ただ、その任せるとかゆだねる感覚を身につけたら、色んな流れにも乗りやすくなるのかなと思いました。

  • ゆうこ says:

    おはようございます!
    Kさんのブログと賢者のコメントを読みながら
    清々しい気持ちを得られていることに感謝いたします。

    自然の力には敵わないこと、
    自然と一体になれた時の安心感と達成感、
    味わいたいです。

    それこそ、
    人生の質が変わりそうです。

  • 真里 says:

    Kさん、前作に続き賢者との体験をシェア頂きありがとうございます!スケートボードを嗜まれているとは知りませんでした。お写真から長年の修練と自負を感じますね。

    私はサーフィン未経験なので、内容から好奇心と難しそうだという印象を感じました。Kさんのおかげで序盤に退場しそうなキャラにならずに済みました!
    前作でお話をしていた白イルカと黒豹の対比も確認させて頂き、納得しました。逞しいお背中に心がときめいた女性は私だけではないはず。

    そしてオーディオブック!記事を読んだ後に確認させて頂きました。表現豊かで耳心地が良い素敵なお声ですね。
    ブログを見る楽しみが増えました!
    次回の物語も楽しみにしています。

  • 秀直 says:

    Kさん

    なんと驚きの連載でびっくりですが、本当に心に残る体験をされた様子で感激しています。

    水泳で国体やインターハイに出場したことがある自信満々の生徒さん達も最初は海の中ではもがき苦しむ人がほとんどです。

    海に入ると自然の中では人間は無力であると強く感じるのです。

    きっとKさんもそのように感じられたのではないでしょうか。

    私もそうでした。

    自然を力ずくで押さえつけると必ず仕返しをされます。

    自然に敬意を表し身を任せ、一体になった時に素晴らしい恩恵を与えてくれます。

    波に乗れた時(乗せてもらえた時)、大自然に包まれているような、そして受け入れてもらえたような不思議な感覚と一体になれた大きな安心感と達成感が怒涛のように降ってくるのです。

    私はもうこの感覚から抜け出せません。

    波に押されて海面を猛スピードで走ってるのは空を飛んでるような気持ち良さ!

    まさに天と地に包まれてる瞬間です。

    Kさんの本気で楽しむ姿のおかげでまたまた海が好きになりました。

    PS:動画を観て気づいた点がいくつかありました。

    ここを修正すれば絶対立てると分かりましたので、次回のチャレンジをお待ちしています。

    • Codawari says:

      師範。素晴らしい体験を有り難うございました。
      師範のイルカのような美しい滑りが夢に出てきます。

      現場では、「波が小さい」などの数々の無礼な発言を失礼しました。
      ウィンドサーフィン、カイトもぜひ挑戦してみたいのでまたご相談させてください。

  • 肥田全弘 says:

    Kさんのスケートスタイル…カッコイイです。
    サーフィンはレフティですね?
    すぐにうまくなっちゃうオーラ感じます♪
    運動神経やセンスも素晴らしい事が想像できます。

    実は僕も20代の頃サーフィンとスケボーにあけくれていました。

    スポーツとは違う、カルチャー、究極の遊び?
    何か特別なものを感じます。

    今日もこだわりをありがとうございます♪

  • Reika says:

    前回に引き続き浜松での記事ですね!!

    全文を読み終わってから改めてタイトルを見ると、本当にサーフィンが楽しかったんだなぁというのが伝わってきました。

    サーフィン経験がないだけでなく、そもそもあんまり泳げない私でさえ、思わずやってみたい!と率直に思ったくらいです。

    ちなみに、Kさんがスケートボードに青春を捧げていた事が意外で、その時のお話も気になります。

    今回は美声の伝道師の声と共に記事を拝見したのですが、彼女の声がとてつもなく美しくて”作業のBGMにでもしようか”と思いました。

  • りゅうき says:

    Kさん本日も素敵な記事をありがとうございます!

    僕も海に入るのは抵抗がありました。
    何かに刺されたらどうしよう、国に海水入ると気持ち悪くなるしな。

    でもこの方は、「海は健康になれる。自然の恵み。体がどんどん良くなるよ」と言ってくれました。

    その後から口に入るのも、鼻に入るのも、海に入るのも楽しくなり、夢中でサーフィンをしていました。

    体験する大切さを実感した時でした。

    もう一度この方からサーフィンを教わりたいと強く思っています。

    素敵なお話をありがとうございました!

    次も楽しみにしています!

  • 留莉 says:

    今回も素敵な経験の共有をありがとうございます!

    さざ波に乗るのがそんなに大変なものとは考えたこともなかったです。

    Kさんがスケートをされていたのは意外でした!そんなKさんなら同じような感覚であっさりとできてしまいそうな気もしますが、

    やってみないとわからないことって世の中にはたくさんありますね。

    わかったつもりにならないを改めて心がけていきたい気持ちが強まりました!

    Kさんの今回の文章、いつも以上に物語の中に誘われるようで、一緒にサーフィンしたんじゃないかくらいの感覚になりました!

    本当に楽しく読ませていただきました!
    次回も楽しみにしています!