2022-08-26

天然鉱石のマスク・チェーン

作家の女性と出逢ったのは、町のカリグラフィー教室だった。

「水曜の昼下がりにシャンパンを飲みながら、西洋のカリグラフィーを学びませんか?」

そのようなまるで学ぶ意志を感じない広告にあえて乗ってみたのだが、案の定会場には、暇を持て余しているであろうマダムしかいなかった。

ひと筆進めたら飲んで、またひと筆進めたら飲んで、というどうしようもない連中の集まりであったが、店主の証言では私が最も飲んでいたそうなので、文句を言える立場でもないのだろう。

その中でただ独り、飲むよりも描くことに集中していた女性は、鉱石で装飾品を仕立てる作家だった。

本日は、そんなマダムに依頼したこだわりの装飾品を紹介しよう。

ムレータ(赤い布)を持たずに闘牛と戦うことはできないように、マスクなくして日本で平穏に暮らすことは出来ない。

なぜならマスクを忘れようものなら(たとえ悪意が無かったとしても)人々から白い目で見られ、神経質なおじさんに怒られ、蛇ににらまれた蛙のような惨めな気持ちになるからだ。

そのため私は外出の際には、小学生が首から鍵をぶら下げるように、マスク・チェーンを使って忘れないようにしていた。

しかしカリグラフィー教室では、私の自慢のマスク・チェーンはすこぶる評判が悪く「もっと気の利いたものを身に付けなさい」と作家の女性から侮蔑の視線を送られてしまった。

まるで耳の良い音楽家が、音程の狂った音楽に我慢ができないように。

かくして私は、授業の後(半ば強引に)鉱石屋に連れられ、天然石で新たなチェーンを作ってもらうことになった。

作家の女性が手編みした天然石のマスク・チェーン。

400以上の硝子のビーズで描いた国旗に、純度の高い水晶が配置されている。

日本製のビーズは、艶やかな色合いや統一感のあるカットが世界的にも定評があり、そこに作家の手技が相まることで、芸術的なモザイク画が誕生した。

家庭科の授業で針の穴に糸を通せず、涙で枕を濡らした私からすれば、蜘蛛の糸ほどの紐を無数の穴に通すなんて、正気の沙汰ではない。

これだけ装飾にこだわっても、マスク・チェーンの主役はあくまでもチェーン(鎖)であり、装飾品は鎖を彩る脇役に過ぎない。

トルコの伝統的な染物に銀を編み込んだエメラルド・グリーンの鎖は、私のお気に入りの国産大麻のシャツによく馴染んだ。

オーダーメイドだからできる世界で唯一無二のマスク・チェーン、あなたもおひとついかがだろうか。

おたより

作家のご紹介を希望されるなら、ラインで教えていただけるだろうか。

「石」の種類や予算に応じて作ってもらえる。

館主が集めた「叡智の結晶」は、Youtubeでも公開している。

ぜひ一度覗いてみてはいかがだろうか。

 

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コメント5件

  • 雄貴 says:

    マスクを忘れてしまった時の周囲からの表現の部分が、思わず笑ってしまうほど共感できます笑

    もはやファッションアイテムとしてCodawariを持っていきたいと思っていたので、僕もマスクチェーン作りたいと思いました。

  • 歳國亞希 says:

    しょうさん
    素敵なこだわりのご紹介をありがとうごさます。

    コロナ禍になりマストアイテムとなったマスクに少々嫌気がさしておりましたが、あえてこの状況を愉しむのもいいかも♪と思ってしまいました。

    一つ一つ丁寧に創りだされたデザインが、とても美しく、相まってマスクもお洒落に見えますね。

    マクスを美しく着こなす意識も大切だなと感じております。

  • shingo says:

    久しぶりのCodawariの記事でテンションが上がりました。

    マスクチェーンを身につけている人は少ないですし、手編みの特別な一品なら、間違いなく周囲から注目の的になりそうですね。

    このクオリティで、価格の安さにも驚きです。

    今回も素敵なご紹介をありがとうございました。

  • 山本真里 says:

    久しぶりのCodawariの世界観を堪能させて頂きました。実はショウさんの影響で、村上春樹さんの作品から文章表現を学ぶ本を手に取りました。比喩表現や体言止め、言葉遊びは、頭の中がWikipediaなのかと錯覚しそうな知識量におったまげました。知的で品がありながら、ユーモアたっぷりの作品を朝から拝見出来た事で最高の一日になりそうです。

    本当に、マスクなしでは日本は歩けませんね。とても素敵なマスクチェーンなので、折を見てお願いしようと思います!
    素敵な作品をご紹介くださりありがとうございました。

  • Yusei says:

    マスクチェーンにこだわりと美を追求する在り方に脱帽しました。

    実用的な要素だけでなく、デザインも楽しむぐらいの余裕を持ちたいです。