2022-01-02

美術館でかくれんぼ

スーツケースひとつで私の住む町に引っ越しをしてきた青年から「旅行に招待したい」と連絡をいただいた。

なんでも、車で6時間の僻地に「宿泊できる美術館」があるらしく、そこで仲間たちとかくれんぼをしたいそうなのだ。

子ども好きな私としては、彼のその無邪気な提案も二つ返事で引き受けたが、その先に待っていたのは、想定よりも遥かに洗練された大人の美術館だった。

本日はそんなこだわりの館をご紹介させていただこう。

青年が案内してくれた「瀬戸内リトリート青凪」は、美術館を改装した全7室のラグジュアリー・ホテルで、内資系ホテルでは日本で初めてミシュラン5ッ星を獲得したお宿だそうだ。

創設者は建設にあたり、建築家の安藤忠雄氏に予算無制限で依頼をしたそうで、鹿や猪しか集客できそうにない山奥に、不釣り合いなほど都会的で洗練された幾何の館がそびえ立っていた。

天気も快晴で、コンシェルジュの案内も素敵だったため、我々はシャンパンを頼み「美術館日和ですね」と乾杯から始めた。

青年が私のために用意してくれた部屋は、170平米もあるメゾネットで、水族館のようなガラス窓からは島々が一望でき、ホテルというよりはむしろ飛空艇のようであった。

一国の王ならまだしも、平民の私がここを独り占めするのは、さすがにどうかと思ったが、文句を言っても始まらないので、双眼鏡でバードウォッチングをしながら、ワインを飲むことにした。

テラス席に座り、海を眺めるのは至福のひと時だったため、みんなここに来た目的を忘れるかもしれないと思ったが、案の定、かくれんぼは始まりさえしなかった

リトリート青凪では、部屋だけでなく至る場所に絵画や彫刻が飾られており、閉館の時間を気にすることもなければ、監視されることもなく、アート作品を心ゆくまで愛でることができた。

予算度外視で空間を設計するようなホテルだ。お料理の良し悪しはもはや言及するまでもないだろう。

どのくらい美味しかったのかというと、青年の気持ちが昂り、理性を忘れ、1万円のみかんジュースを開けたくらい素晴らしかった。

ミシュランの評価の通り、この宿に泊まるためだけに旅行のスケジュールを組む価値があるので、ぜひ検討してみてはいかがだろうか。

おたより

ご存じの通り、館主は偏屈で気難しい人物である。

おそらく友達が少ないため申請してあげると喜ぶに違いない。

館主が集めた「叡智の結晶」は、Youtubeでも公開している。

ぜひ一度覗いてみてはいかがだろうか。

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コメント12件

  • 細野義貴 says:

    瀬戸内にこんな素敵な場所があるんですね。
    1万円のみかんジュースを空けてしまう程の美味しい料理。
    どんなものか想像もつきません❗
    ただただ素晴らしいとしか言いようがございません❗

  • Anonymous says:

    泊まるために旅のスケジュールを組む、それほどまでに素敵な空間であることは間違いなく、でもそういった経験をまだ積めていないため、一体それはどんなものなのか漠然としか掴めずにいます。

    その一方で、そんな旅をする自分の妄想ですぐに頭がいっぱいになりました。
    この世界にはまだ知らない驚きやわくわくが本当にたくさんありますね。

    窓から見える大きな絵画のような風景が、言葉にならないくらい素敵です。
    訪れたい場所がまた一つ増えました。
    一万円のみかんジュースを開けてしまうほどに気持ちが昂る瞬間が、今からもう楽しみです。

    わたしもかくれんぼの予定をたててみようかな。

  • MINORU SHIBATA says:

    宿泊できる美術館があることに、まず驚きました。
    そして予算無制限で設計された建物が、どんなものか想像できませんし、
    訪れたとしても、建築の知識のない私には凄さは感じられないとは思いますが、
    お話しを伺うだけで凄い場所だということだけは分かります。

    今回はかくれんぼをされなかった。ということですが、もしかくれんぼをしたとしても、鬼は美術館の美しさに魅了されて、隠れてる人を探すのを忘れてしまって、隠れてる人がしびれを切らして出てきてしまい、かくれんぼが成立しないような気がします(笑)

  • Nobutoshi says:

    かくれんぼはぜひやってほしかったですけどそういう雰囲気ではなさそうですね(笑)

    大抵予算が決まっててその中でやるのが通常だと思うんですけど予算度外視だとクルエイター側もフィルターが外れるのでとことんこだわった空間なんでしょうね。

    そういう意味で体験してみたくなりました。

    行ったらオドオドしてしまいそうです。

    本日も自分にとっての非日常をありがとうございます。

  • りゅうき says:

    Shouさん
    今回も素敵な宿体験をありがとうございます!

    美術館を改装した宿、内資系ホテルで初めて5つ星、一万円のみかんジュース。
    どれも興味をそそられる内容でした。

    こういった知らないことを共有していただけるのは本当にありがたいです。

    次も楽しみにしています。

  • mitsue says:

    Shouさん、おはようございます。

    こちらの美術館、ほんとに素敵ですね✰
    かくれんぼにご一緒した仲間たちに素晴らしさを共有された時からずっと気になっていました。

    時間を気にすることなくアート作品と自然という絵画を堪能できる素敵な場所☆彡

    いつか訪れてみたいところのひとつになりました。

    ただ、訪れたら素晴らしさに感動し、私も1万円のオレンジジュースを開けてしまいそうで怖いです。

    今回も素敵な記事をありがとうございます。
    次回も楽しみにしています♪♪

  • あめ says:

    旅の目的が宿泊施設であると言うのもひとつひとつの物事をより深く堪能できそうです。

    ゆったりと流れる時間を楽しんでみたいものだす。

  • 洋二  says:

    全面ガラス張りの窓一面に広がる空、雲、山。文章を読む前に飛び込んできた風景に釘付けになりました。私の故郷四国にミシュラン五つ星のホテルがあるなんて想像もしませんでした。多くの美術品に囲まれ、瀬戸内の魚介を存分に味わい、多島美を眺めながら過ごす休日はほんとうに最高ですね。こんな素敵なお宿をプレゼントしてくれた青年の想い、その青年をここまでの成長に導いたShouさんの行いが旅にさらなる深い滋味を加えてくれたことでしょう!

  • Yusei says:

    素敵なホテルですね!
    非日常を体験してみたいです。
    興味をそそる記事をありがとうございます。

  • 真里 says:

    Shouさん、素敵な体験をシェア頂きありがとうございます!日本にこんなところがあったなんて驚きです。お部屋からのバードウォッチング、素敵ですね。空間、絵画、お料理の美しさを堪能出来る素晴らしいホテルですね。一番驚いたのは1万円のみかんジュースの存在でしたが。。。
    素敵な非日常を届けてくださり本当に感謝です!

  • 留莉 says:

    泊まれる美術館!
    聞いただけで心が踊り出してしまう素敵なところですね!

    こんな素晴らしい場所に招待してくれる青年さんもとても素敵です!

    実は泊まるの目的にした旅行をまだ経験したことがないのですが、こんな素敵なお宿なら、むしろ出かけてしまう方がもったいないですね。

    お料理がどれだけおいしいかとてもよく伝わってきます!

    素敵な経験の共有をありがとうございます!
    次回も楽しみにしています!

  • 雄貴 says:

    Shouさん、こんにちは。

    宿を目当てに旅行に行くのが好きなのでとても興味深い記事でした!

    「リトリート青凪」、ネット上でチラッと見た事はありましたが、自然を感じられるような素敵な宿だった事がとても伝わってきます。

    1万円のみかんジュースもなんだか気になるので、ぜひ行ってみたいです!